新型コロナで観光客減も「奈良のシカは飢えてません!」
保護団体が訴えるワケ、もっと深刻なのは…
日本国内での感染拡大が懸念される新型コロナウイルス。中国人観光客を中心に各地で観光客数が激減する中、人気スポットでもある奈良公園周辺のシカの保護活動に取り組む一般財団法人「奈良の鹿愛護会」の公式アカウントが、先日「『鹿が飢えている』『凶暴化している』といったことはありません」と訴えるツイートを投稿しました。その思いを、同会の蘆村好高事務局長に聞きました。
ツイートは今月7日のもので「ご心配いただいた優しい皆様ありがとうございます。奈良公園の鹿たちは、いつも通り元気に過ごしています」と、ゆったりと過ごすシカの写真とともに投稿。これまでに5千件以上リツイートされ、6千件以上のいいねを集めています。
―なぜこうしたツイートを?
「『シカが飢えている』『腹を空かせているんだからエサをちゃんとやれ』といった趣旨の電話が相次いだんです。一番多かったのは先週金曜日(7日)。なんでそんなことを…と思って尋ねると、テレビで『凶暴化している』という内容の放送を見たと言われて…。県や観光協会にも同様の電話が相次いでいるということで、これは愛護会として公式に否定しないと、と」
―効果はありました?
「今は、電話も落ち着いています。新型コロナが原因か、奈良公園周辺はいつもより人が少ないですが、シカは普段通りです。放送では『せんべいが食べられないから芝や落ち葉を食べている』という声もありましたが、元々奈良公園周辺のシカは野生なので、主食は芝(ノシバ)です。周辺には木の葉もあるし、ドングリもあります。落ち葉も普段から食べています。周辺は若草山など広くて大きい草地がありますから、シカも何百年も前からそうやって暮らしてきたんです」
―せんべいは関係ない、と。
「せんべいは主に米ぬかでできていますが、シカにとっては『おやつ』です。ただ、人間でもおやつは美味しいように、シカも大好きなので群がってきます。せんべい屋さんの側には看板も置いていますが、子どもだけであげたり、じらしたりしないでください。無くなったと分かれば離れていくし、持っていない人には群がりません」
「何より問題なのは、パンやスナック菓子など人間が食べるものをシカに与えること。一度口にすると、シカはその匂いを覚えてしまい、匂いの残った袋も食べてしまう。ポイ捨ても絶対にしないでください。最近、ビニール袋を食べて死ぬシカが相次いでいて、今年1月末にも衰弱死したシカの胃袋から2.5キロものプラスチックごみが出てきました。6歳の若い雄シカでしたが、消化できずに胃にたまり、エサを食べられなくなったのでしょう。保護したときはガリガリで立ち上がる力もありませんでした。昨年3~12月に奈良公園周辺で死んだシカのうち、解剖した21頭中、7割弱にあたる14頭の胃からプラごみが出てきたのです」
いま奈良公園では、3月12日まで、愛護会のスタッフがホルンを吹いてシカを集める人気のイベント「鹿寄せ」が行われています。観光客が減る中でも、これを楽しみに訪れる人たちの数は「例年とほとんど変わりない」(蘆村事務局長)のだとか。
「心配してくださったのはとても嬉しいこと。でも、テレビでだけ見て心配されるなら、ぜひ奈良に見に来てやってください。みんなのんびりと座ったり、草を食べたりしています。その姿を見れば、本当のことが分かると思いますよ」
リンク:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200215-11003397-maidonans-life
[単語]
1.飢える(うえる):食物がなくて空腹に苦しむ。ひどく腹が減る。
2.凶暴(きょうぼう):性質が残忍で非常に乱暴なこと。
3.趣旨(しゅし):事を行うにあたっての、もとにある考えや主なねらい。
4.相次ぐ(あいつぐ): 物事があとからあとから続いて起こる。
5.衰弱(すいじゃく):からだなどが衰え弱ること。